「やっぱり、やめよう」

行くわけないだろ、面倒くさいって言われるのがオチだ。
気を取り直して床を掃こうと振り返る。すると、なんだか様子がおかしかった。

何がと言われると、言葉には例えようがなく、しいて言うのなら、野生の勘に近い違和感。

「ん……?」

よく見れば、テーブル席に座る拓海先輩の読んでいる本が逆さまだった。

そんな事、よく見なくてもわかるはずなのだが、なにせ本人が平然と読書を続けているため、自分の目がおかしいのかと錯覚してしまう。

「……面白いな、なかなか」

「えっ」

私は戸惑って、つい声を漏らした。拓海先輩は普段、本の感想をわざわざ口にしたりしない。故に気味が悪い。

そして、おかしいのは拓海先輩だけじゃなかった。

カウンター席からチラチラとこっちを見ては目が合うと逸らす、という奇行を繰り返してる空くんだ。

「あー……いつもありがとう」

しかも、工具に話しかけながら、専用の布で手入れをしている。空くんはいつも、私への「おはよう」の挨拶すらシカトし、黙々と工具の手入れをしているのがスタンダードなのに。

──やっぱり、何かが、おかしい。

人間誰しも悩みがあって、おかしくなりたくなる気持ちもわからなくは無い。 そうか、これはそっとしておくべきなのか。それとも、話を聞いてあげるべきなのか。でも、相手はなんせ男の子なのだ。

親友の相談に乗るのとは、勝手が違うし、下手に首突っ込んで、プライドを傷つけるなんて事になりかねない。

うーんと、ほうきに顎を乗せ、頭を悩ませる。

──あぁっ、私はどうすれば!!

この奇妙な世界に、発狂しそうになった。