…しばらくして、コーヒーが運ばれてきた。
「ごゆっくり」
「ありがとうございます。」
「で?
話したいことって」
「話す前に、俺が今から言う言葉は信じなくていい。ただ、聞いてくれればいいから」
そう言いながら、仁は自分の手で左目を隠していた。
「……………」
「まずは、3年前のあの大会の前日のことを謝りたい
すまなかった…。お前が歌を歌わなくなるまで傷つけていたなんて思わなかったんだ。」
「………………」
「ただ、あの時…天才と言われていたお前にひがむ人もいた。挫折を知らない…怖いもの知らず…ひどいやつだと…ワイロでもしているんじゃないか。そんなことを言う人が、たくさんいた…。
俺は、恋は…そんなことをしないと。恋の実力だと証明したかった。だから…」
「あれを言って、挫折を覚えさせようとした?」
「………あぁ。
自分でも、酷いと分かっていた。下手をすれば…あの時の周りの人より酷いことを言った。
だから、今更…許して欲しいとはいわない。ただ、あの時の言葉は本心ではないと知っていて欲しい。」
「俺がそれを信じなくても…いいと?」
「…………あぁ。
信じなくてもいい。頭の片隅にでもあれば…それで充分だ。」
そういった仁は、また左目を手で隠した。
「……………………ハァ」
「…………恋?」
「兄貴の言い分は、わかった。
俺からも1つだけいい?」
「………なんだ?」
「兄貴、最初に言ったよな?
俺の話すことは信じなくてもいいと。」
「……あぁ。」
「兄貴…気づいてないだろう
兄貴は、昔から嘘をつくとき、必ず左目を手で隠すんだよ。」
「左目を?」
「あぁ、やっぱ気づいてなかった
で、俺の話すことは信じなくてもいい。それを言った時も左目を隠していた。」
「……………っ!!」
「つまり、本当は信じて欲しいんだろ?」
「…………」
仁は図星をつかれ、うつむいた。
「まぁ、最初から信じるつもりだったし。関係ないけどね」
「……………えっ…!?」
「それと、兄貴は1つ勘違いしてる。」
「勘違い?」
仁は、その言葉を聞いて…うつむいていた顔をあげ恋を不思議そうに見ていた。
「あぁ。
兄貴は、俺が兄貴のことを…恨んでると思ってるだろ?」
「………あ、あぁ
違う…のか?」
「完全に違うとは、言えないけど…
半分以上は違う。」
「………………」
「確かに、あの時…兄貴の言葉で歌をやめたのも…兄貴の言葉に傷ついたのも事実だよ。
それ以来、兄貴の話をされるのも嫌がって…怒鳴り散らしたこともあった。
だけど…」
「……………」
「……それでも、俺の大事な兄貴だから。」
「…………………っ!!」
仁は、思わず目を見開いた
「まだ、俺がガキだったころ…仕事で親父達が海外に行って…親父達の代わりに俺を育ててくれた…俺の唯一の家族だから」
「………でも、俺の話もされたくないほどだったんだろ?」
「それは、思い出したくなかったから
強くて…優しい兄貴に、あんなことを言われた過去を…思い出したくなかったんだよ。
弱い所を見せたくなかったから」
「………………恋」

