たっちゃんとりゅーじがお見舞いに来てくれた。
理解力の低い僕が頷きながら会話を聞いてる。僕の世界は、病気をしてからずっと停止しているままだが、皆の世界は常に動いているんだな、と実感した。
最初は訪れるお見舞い客に、当然みたいな顔で迎えていた僕だが、時間は常に動いている。だんだんと姿が見えなくなるお見舞い客。やがてそんな顔してた自分が、本当にバカだったと思えてくる。
そしてそこで交わされる会話の内容。会社での自分の立場。同僚と飲みに行ったこと。上司は厳しく、妻には毎日尻に敷かれてること。夜遊びに色々出かけたこと。
その全てに、僕は頷くことしか出来なかった。話す事が難しいから、という理由じゃない。皆の会話のレベルが、もう僕には手の届かない所まで来てしまったのだ。いつまでも大学生じゃない。社会人となった皆の、大人な会話に、子供のままの僕は閉口するしか術を知らなかった。
しかし、たっちゃんらは僕のために、僕でも分かる会話の種を植えてくれていた。進んでいく時の流れに逆行しているように感じたが、僕でも分かる会話をしてくれるのは助かった。
「あ、チュー卒業式のアリの暴走覚えてる?」
「お びょ え て る よ」
「あいつ酒入っててもなくても変わんねぇよなぁ」
くくっと思い出し笑いするたっちゃん。

