"僕は何も持っていない"


いつからか、それを実感するようになった。
病気になってまだ一年ほどの頃、僕は僕以外の廻りの人間を見下していた。

『こいつ訳分からない事言って逃げてるな』
『また話をごまかしてるな』

自分が理解出来ない事は他人のせいにして、現実逃避していたんだろうと思う。

それが徐々に、"単に僕の理解力が低いだけじゃないか?"といった考えに、変わっていった。

まともに返答できないのは病気のせいだ、と誤魔化していた自分に、急に白刃の矢がたった感覚。

その結果

"なるほど"
"たしかに"

と短い言葉で会話を自ら終了させる術を、いつの間にか習得していた。


会話二人だけだと、相手も話す対象が自分しかいないので、僕に合わせてくれる。
だが、三人、四人と増えてくると、僕は隅に縮こまってしまう。

まず会話の内容についていけない。
会話の節々にある、ツッコミ所に気付いても、言ったとして『もし伝わらなかったら』という予想をしてしまう自分がいて、口に出す事が出来ない。

会話のレベルの高さ。
その会話スピードが高速。

この2つが、一般的な人間社会に溶け込むのを阻むかの如く、巨大な城壁を"自ら"造り出していた。