疑問符のついた由衣の声。
拓人は、離れていく由衣の腕を強く掴んでいた。
「…拓人君?」
由衣の疑問が、緊張に変わったのが、表情から分かった。
何に緊張しているのか。いや、僕にだ。
定まらない思考の中で、自分が何をしようとしているのかも分からない。善と悪の境界線が曖昧な自分を叱咤するように、拓人は喉から声を絞り出した。
「──…由衣…」
拓人の雰囲気がいつもと異なる事を悟った由衣だが、拓人の腕を振りほどこうとはしなかった。
拓人は決める。
今日だ。今だ。僕らの関係を進めるのは、今だ。
行動を決めた内なる自分を賞賛しつつ、拓人はゆっくり目を閉じ、由衣に近づい──
ピンポーン!
ガクッと項垂れる。

