"プラトニック"を辞書で調べた。
『肉体的な欲求を離れた、精神的な愛のことである。…』
拓人と由衣は、つまりプラトニックなのだ。
…だが、それがいいんじゃないか、と心の声が発する。
元カノ達を思い出す。
どんな時でも拓人に寄り添ってくれた。関係もどんどん進んだ。
スムーズなその流れに、拓人は満足していた
と思っていた。
心の中には、ある違和感がずっと居座っていたのに、拓人は気付かないフリをしてきた。
事が進んで行くスピードに、拓人は追いつけていなかったのだろう、と今冷静に分析する。
本来の拓人は、なんでもノロノロと亀のように、進行速度が遅い。
早すぎる展開の進むテンポに、殆ど引き摺られるようについていっていた。
…だが、今回は違う。
話の進む速度はスローテンポ、のんびり屋の拓人でも、ゆっくりとした足取りで十分なほど。
まだ『キス』にも至っていない関係は、見る人から見ると、嘲笑に値するかも知れない。
…だが、これでいい。
前も思ったが、これでいい。そんなに急がなくても、いい。
"自分達のスピードを保っていれば、それでいいんだ"
天の声が聞こえたかのように、その場で立ち止まり、曇り空を眺めていると、地で声がした。
「チュー!もう飯食った?」
ピロティの方から近寄ってくる中。相変わらずのニ…ニヒった顔が浮かんでいる。

