「チュー!」
一般人が聞いたら疑問に思うであろう、擬音ともとれるあだ名で呼ばれ、拓人は振り返る。
こちらに近づく二人の男子学生の姿があった。
「前期の講義何とった?」
そう聞いてきたのは田丸 健也(たまる けんや あだ名「たっちゃん」)。大学生は、普段仲のよいグループというものがあり、ゼミも一緒に取っている者もいる。だが講義をどういったものを取るかは、自分の将来を見据え独自性を強化するためにも、一人一人が決めている事が多い。だが…
「…いや、わかんない。僕基本的に中に任せっきりだから」
そう、こういう人間もいるのだ。こういう人間は後で就職活動で困る事になるのだが、この時の拓人は今の状況を楽観的に捉えていただけだった。
「かぁ~またかよ?なんでもかんでも中と一緒って、キメェぞそれ」
たっちゃんの横でりゅーじが呆れたように言う。三橋 隆二(みつはし りゅうじ あだ名「りゅーじ」)はたっちゃんと同じゼミを取っているが、将来家業を継ぐ、という確固たる目標を持っている。
「後期からは自分で決めるよ」
最早常套句と化したその言葉は、春の陽だまりと一緒に溶けていきそうなほど、頼りなかった。

