翌日、僕はリハビリに行くためエレベーターの前で待機していた(僕が入院していた場所は三階にあった)。チン、と扉が開くと、車椅子に座った女の子が出てきた。

同じく車椅子に座っていた僕は、少し右側に寄り、女の子が出ていく道を作った。

少し頭を下げて、女の子と僕はすれ違った。


爽やかな香りが、鼻腔をくすぐる。入院中でも、女の子は香水をつけるのか…──

──その時、眠っていた違和感が覚醒したかのように、僕を記憶の底へと引きずり込んだ。


僕は…"彼女がいた"のではないか?


違和感の正体を掴んだ。そんな感覚。


──…でも、誰だっけ?

その場で浮かんだ疑問。車椅子を動かす事も忘れ、佇む僕。

誰も乗っていないエレベーターの扉が、勝手に閉まっていった。