──…大学三年生、春。

子供でいられる時間が残り僅かと迫ってきている今。拓人は暢気に暖かな春の陽気に呑まれていた。きっと、中も。


さっきの学生は中 隆雄(あたり たかお)。基本的に真面目な学生を装ってはいるが、かなりの遊び人。この二年で、彼の悪名は学内に轟いていた。
それでも一緒に居続ける、榊原 拓人(さかきばら たくと)は学内の皆から尊敬されていた。


『あんなタラシと一緒にいて平気なのか』
『さっさと離れた方が身のためだ』


さんざん言われてきたが、それでも中と共に過ごす拓人に、周りの人々は呆れて、(侮蔑も込められた)尊敬の念を送る。


だが違う。皆が嫌っているから一緒にいる、は格好付けた建前で、本当は離れるタイミングを逃しただけだ。本来の優柔不断さが、ここぞとばかりに発揮されただけの話。