…ただ、その恋は、一本の細い棒が砂によって支えられ立ってるような、頼りない恋であった。


今は就職活動の時期。ゴウセツに沢山足を運ばなければならないし、年が開ければ個々の企業の説明会も始まる。

就活生には、恋をしてる余裕はないのだ。

…そう思う事で、自分の感情を殺していた。


「──ありがとうございましたー!」


その声で我に還ると、最後のお客さんが退店していく所だった。

カランカランという音と共に静寂がやってくる。お客さんが誰もいなくなった店内に拓人と由衣だけが残された。厨房には桑田さんもいただろうが、今は奥に引っ込んでいるのかも知れず、厨房からも無音だった。

ん~っ、と由衣が伸びをした。


「今日も終わりだね拓人君。そっちのブラインド下げてくれる?」
「…うん」


由衣と店の後片付けに入った。

こうして二人で後片付けするのはずいぶん懐かしい感じがする。
就活が始まって、色々制限された。説明会やら企業訪問やらで、本来の学生の自由さが失われた。

でも一緒にいる時間が減ったからこそ、自分の気持ちが大きくなったのかも。

ブラインドを下ろしている由衣の後ろ姿に目をやりながら、そう思った。