「あ!何照れてんだ!?もしやお前バイト先でなんかあったな!?」
拓人の紅潮を敏感に察知した中は、鋭く痛いところを突いてきた。
「えっ!?いやなんにもないって!バイト先にはアリの知り合いのおじさんしかいないって前に話したじゃん!」
「ああ…そんな話してたっけな…」
中はもうどうでも良くなったのか、胸ポケットから煙草とライターを取り出した。
…危ない危ない。
煙草をふかす中の横で胸を撫で下ろす。これは切り替えが早く物事深く考えない性格の中のメリットだった。このメリットは就職活動にも大いに生かされている。
拓人は『Kオーシャン』のバイトを続けていた。
就活の時期に入ったこともあって、あんまりバイトを入れられてなかったが、それは桑田さんも分かってくれたようだ。
何より由衣も同じく就活に入ってる訳で、拓人の辛さも御し易かったのかも知れない。
このバイトは、今までやって来た数多くのバイトとは違っていた。
その理由は"由衣がいる"事。
就活ではやる気出なくとも、バイトでやる気を出せばいいだろう、という安易な考えを作り出した根因は間違いなく由衣がいるからだった。

