言語の療法に集中した。


氷の入った棒で口の中を刺激したり、ガーゼにくるんだガムを両方の歯で噛んだり、コップにストローをさして水をブクブクとしたり、右頬のマッサージをしたり…

色々な療法が続いた。


だが、これでは声が出ないと判断した母親は、僕がお茶を飲んでむせたときに出た"せき"を認識させたり、つまらない事で笑い、吸い込んだ時に出る声を何度も出させたり…

繰り返し声を出させる事で、僕はやっと声の出し方が分かったみたいだ。

まだまだ僕本来の声とは程遠いが、ようやく自発的に声を出せるようになった。


それからは『自発的に』を反復。

息を吸って吐く時に出る声、間抜けな声だが、その声で『あいうえお』。それはなんとか発音できたが、それ以降は全然、まだまだ。

日頃頷くだけだった僕を『うん』と言えるようにしよう、そう母親は決めるが、なかなか身に付かず、促してもらう事でようやく『うん』と出る程度だった。

まともに話せるようになる日は、くるのだろうか。


…母はそう思ったらしい。


"母親の日記" 引用