お見舞いに訪れる皆に、僕は礼も述べず(示さず)、ただだらりとベッドに寝ているだけだった。


転院してから、一気に大学時代の友達が押し寄せて来てくれたのだ。


僕は相変わらず、言葉を発する事が出来なかった。それに"どうせこれ夢だから"という、現実を認めたくない自分が常に居座っていた、というのもあったからか、頷くしか出来ない自分に、別段何とも思わなかった。


皆新入社員として職場に入った者ばかりで、現在の自分の気苦労を一方的に話して帰っていった。


"出来れば拓に寄せ書き書いてあげて"


僕は覚えてないのだが、母親が見舞いに来てくれる人達にこう言ったらしい。

学生時代の友人達の言葉が、ノートに記された。


皆の寄せ書きは、その頃何も思わなかったが、今はとても感謝している。


…だが、一つ違和感があった。


…なんか記憶の一部が、すっぽり抜け落ちてしまったような…


ベッドから起きて朝食を食べ、時間が来たら車椅子でリハビリへ。間に昼食を挟んで、またリハビリ。
それが終わるとまたベッドに戻り、だらだら夕食の時間まで過ごす。


それが当たり前と化した生活の中、パズルのピースが一つ足りないような、そんな感覚がずっと消えなかった。