頭の悪い三流大学の拓人とは異なり、由衣は普通の大学に通うごく普通の学生だ。

初めて由衣を見た時にはなんとも思わなかったが、こうしてほぼ毎日のように顔を合わせていると、人間というものはやっぱり変化していくものなんだな、と実感する。

くっきり二重の瞼に覆われる優しげな眼。小徳利のように下膨れの鼻。端正な口許からは白い歯が覗く。

なんといっても、今時の大学生には珍しい真っ黒なショートカットの髪、その髪が時々触れる、掴んだら折れてしまいそうな細い肩、これらが今や拓人を虜にしていた。

…人間というものは、最初は全く気付きもしないのに、その相手と触れ合う時間の長さによって、だんだん相手の良さが分かってくるものなのかも知れない…


「──拓人君?布巾布巾!テーブルに置きっぱなし!」
「──え?あ、ごめん!」


由衣の注意で我に還る。


(…逆に、由衣は僕の悪い所が分かってしまったかも…)


布巾を取りに戻りながら、切なく感じた拓人だった。