「そういえば、知り合いがやってるちっさい喫茶店が──」
坂下 智也(さかした ともや)。
拓人とは関係が長く、小中高大おまけに部活まで一緒だった、所謂竹馬の友が、先を濁しながら言った。
「助かる!それは本当に助かる!"アリ"様~!」
「その喫茶店が店舗を拡大するべくメニュー増やすみたい。今度行ってみれば?」
「おぉおい!!」
それでもこの掛け合いは昔からと分かってる拓人はアリに感謝した。
ちなみに"アリ"はあだ名で、最初に大学の皆で会った時着ていたTシャツに"I'm an Ally"と書かれていて、アリーって味方って意味らしいぞ、と誰かがこぼし、それがあだ名となり、縮められてアリとなった、拓人と同じような悲しい過去を持つ。
…そうして拓人は寂れた商店街の、これまた寂れた営業中のプレートのかかった店の前にいた。
夕暮れ時のカラスの鳴き声が、拓人の中にあった不安感を煽った。
カランカランとカウベルの音と共に中に入る。店内にはテーブル席とカウンター席があったが規模が小さく、配置されている席数は少ない。そして、誰もそこに座ってもいない。
営業中…だったよな…とガラス張りのドアを確認しようとすると、奥から声が聞こえた。

