薄ぼんやりとした視界の中、ゆっくりとゼリーを僕の口に運んでくる看護師と、その様子を見守る母親の姿が目に入る。


「──はーい、全部食べられました。おめでとうございます~」


どういう風な食事だったか、どういう味だったか──そう尋ねられても、わからない。その時の僕の様子も含め、『わからない』としか答えられないほど、曖昧な世の中だった。


映画を見た記憶がある。
病院の備え付けのテレビデオで、僕は電動ベッドを少し起こしてもらい、映画を見ていた。

なんの映画か、はなんとか分かる。だがその内容は全く思い出せない。

その時の僕を見て、母親は『視線が定まってない』と思ったらしい。