『視点が定まっていなかった』


母親がそう言っていた。黒目の部分が絶え間なく動き、しっかりものを捉えられていないのではないか。そんな感じがしたらしい。


だが、僕自身は視点がどうとかはまるで不鮮明で、とにかく薄ぼんやりとした世界しか記憶に残ってない。


「はーい、ではゼリー食べてみますねー」


そんな世界から、一つの声が聞こえた。

看護師がリクライニングベッドの横からスプーンにのったゼリーを僕の口に近付けてくる。


「おいしいですか~」


一体いつになったらこの夢は覚めるんだろう。