しん…とした間。


(…ここは謝っといた方がいいかも…)

拓人を含む、アリを放り投げた四人全員が、おそらく思ったろう。

コイツはマジにキレてる…
冷えた空気が漂い出したその時


「──ああぁぁ!!ふざけんなぁぁぁ!!」


突然、アリは叫び声を上げた。


「マジふざけんなぁぁぁ!!」


もはや自分の身振りはどうでもよくなったのか、アリは沖に向かってバシャバシャと駆け始め、水位が胸の辺りまで来ると泳ぎ出した。『コノヤロー』やら『バカヤロー』など喚きながら。

凍りついて固まっていた場の雰囲気に、急に暖かな風が吹き付け、解凍されていくように、ゆっくりと喧騒が戻ってきた。そして皆は大声で笑い出した。


…凄いな。

拓人は遠くの水面で泳いでいるアリを見て、思った。

その場の雰囲気を、壊れたままにしないようにしている。一旦自分で下げてしまったムードも、直ぐ様笑いに戻す。
マイナスの印象は、アリが絡むと全てプラスに変わる。そんな才能をアリは持っている。

拓人はそんなアリを尊敬している。

…と同時に、嫉妬もしていた。


自分には無いものをもつ相手への嫉妬。
アリと過ごしてきた時間に比例する感情。
それが思いの外深いことに、自分自身驚く。

似たシーンがこれまで何度も訪れた。これからも自分は嫉妬するのだろうか。

卒業までの日数は確実に減ってきているとは言え、それまで自分はずっと抱えていなければならないのだろうか。

長年共に過ごしてきたアリへの感情は、"皆の視線を独り占めしてる"と、自分勝手に抱く敗北感に満たされていく。それと共に──


「──チュー!お前も行っとけ!」


たっちゃんはそう言うと拓人を砂浜に転ばせ、


「──え、ちょ、やめ!あああ───」


たっちゃんらは笑いながら拓人も放り投げた。幸い、財布とケータイはBBQ場に置いてきたので助かったが。

海の中で、自分の抱く嫉妬が、小さなものだと また 気付いた。

そして、こんな感情は自分だから抱くのだと また 気付けた。

…もう何度も教わってる気がするのに──