──だけど。
なんて子だったっけ?
薄ぼんやりとした記憶にしか、彼女はいない。
はっきりとした姿が、ない。
そんなに不規則な生活は送っていないはずだった。
決まった時間に寝て、決まった時間に起きる。
毎日のリハビリは、脳に有意義な酸素を送り続けているはず。
一般人の日々の運動量とは比較にならないほど劣っているのかも知れないが、それが自分の記憶力に弊害を来してるとは思えない。
…いや、そんな事じゃない。
僕が疑問に思ってるのは大学生までの記憶。
その後病気になったが、病気以降の記憶は関係ないのだ。
僕が気にしてるのはあの頃の記憶。今どんなに壊れた記憶が回復してきてようと、それはもし病気にならなかったとしても、関係ないはず。
病気になっても、変わらない唯一無二の記憶。
すがり付くように、僕はあの頃を何度も頭の中で再生した。
…そして思い出した。
"由衣"。
間違いない。
──…けど、なんでだ?
なんで忘れてたんだ?
そんな疑問は、シャボン玉のように、すぐに弾けて消えた。

