──コンビニから始まり、徐々に慣らしていく。DVDビデオレンタルショップ、映画館、スーパー、デパート。

これまで当たり前に訪れていた所へ、人が少ない所からだんだん多い所へと、僕は身体を慣らしていっていった。

もっと他に方法があったかも知れない。チマチマと回りくどい方法は、学校帰りに色んな所で道草を食う小学生を連想させる。

だが、僕は知らなかった。

人の多い所では、真っ先に震えてしまう身体。どんな所でも率先して震え出す身体にいつしか怒りを感じながらも、人が少ない所から徐々に慣らしていく方法しか、僕は知らなかった。


病気してから初めて訪れたコンビニに、それはやってきた。

持っているカゴの取っ手を左腕に引っかけ、左手で陳列棚から商品をカゴに入れていく。

商品を詰め終えレジへと向かう。

──緊張する。

ちゃんと財布からお金を出せるだろうか。買った商品をしっかり左手のみで持てるだろうか。そのまま店を出るときの押し戸は開けれるだろうか。…あ、それなら自動ドアのコンビニにすればよかったかも。

しどろもどろになっている間に、店員さんは次々と商品をリーダーに通していく。どんどん緊張感が高まっていく。

店員さんは黙ったまま。
ヤバい…買った後の事考えてなかった。『ありがとうございます』って言うべき?黙って去るのは感じ悪くないか?いや、でも僕のこの声でい──


「──おしぼりはお付けしますか?」