「…じゃあ、僕らも手繋ぐ?」
「…あんな夫婦に、なりたいよね…」


拓人の恥ずかし紛れの言葉は、予測通りの返答で無視された。


「…ん、なれるでしょ。僕の未来予想図は、ほら、思った通りに──」


拓人の歌は、突風により遮られた。

散る桜。

公園の木々が、一斉に揺れる。

風により、オーケストラの合奏のように、奏でられる桜の木のざわめき。


──…感じた。

この世に、自分が一人でいる。
舞う桜吹雪の中で、一人でいる。

先程自ら造った、一人の世界。

それが急激に現れた。


"恐怖"と共に──


「──人君?」


由衣の声で我に還る。


「……え?」
「どうしたの?なんか顔青いよ」


由衣の心配そうな顔色を見て、平静にならなければ、という先導する意識に引っ張られた。


「…大丈夫大丈夫!今朝食べたキャビアにでもあたったかな」
「朝食にキャビア?すごーい」


由衣の表情からは言葉通りの感激はないのはわかったが、拓人は安心した。
話を誤魔化せた事に。

なんだったんだ?今のは…
自分自身でも説明がつかない。

なぜか頭から離れない、小さくも確かな恐怖を抱え過ごす、春のワンシーンだった。