そんな世界もいいな…。
「──ねぇ拓人君」
トリップしていた頭が、由衣の声で現実に戻ってくる。
現実でも遠くのベンチに座る夫婦が増えただけであまり変化はなかった。由衣の視線はその夫婦に向けられていた。
「ん?」
「あの夫婦、いいよね」
老夫婦を注視した。先程拓人らが歩いていた時にも見かけた。
「…さっき歩いてたよね。疲れたのかな」
「あたし達と同じ理由かもよ。その歩いてる所みてた?」
「いや、そんな見てなかったな」
由衣しか見てなかったからね、という軽口を喉元で押し留めた。
由衣の見つめる視線がとても柔らかなものな事に気付いたからだ。
「ずーっと手を繋いでるの。あの年齢で珍しいよね」
由衣の口調から、羨望が感じられる。
"将来、こんな夫婦になりたいね"そんなセリフが浮いて見え、なぜかけ恥ずかしさを覚えた拓人は自分の気持ちを押し隠して言った。

