シーズンを過ぎた、お花見スポットとして有名な公園には、誰も使っていない遊具と一組の老齢の夫婦だけが見てとれた。
「八重も綺麗なのにねー」
満開の八重桜を見ながら、呟く由衣。人が去った後の静けさは拓人も由衣も好んでいるのだが、その姿勢には何となく哀愁を感じる。
「…桜も綺麗だけど…由衣も綺麗だよ」
漂った哀愁を吹き飛ばすように、拓人はキザに溢す。
「ありがと!ねぇ、あそこでお弁当食べよっか!」
軽く流された…
肩を落としている間に、由衣は八重桜の並木道に向かって進みだした。
「"お花見"はこういう晴れ渡った空もセットで考えちゃうねー」
お弁当が入ってるリュックを下ろす由衣。真上の八重桜とその奥に広がる真っ青な空。
見上げて目を閉じると、風が桜を揺らす音、小鳥が囀ずる声、隣にいる由衣の小さな呼吸音だけの世界になる。
人間は自分と由衣の二人だけになった気がする。

