「…昔『八重』って人が、自分の子供に桜を見せたかったんだけど、ちょうど時期が終わってて…変わりに、桜のような綺麗な花を見つけたんだ。それで子供にはその花を桜と偽って見せてあげたら、凄い喜んだんだ。それから『八重桜』って名前が──」
「あっ!あっちも満開だよ!キレイだね~!」
由衣は拓人の話をぶった切って、前の八重桜に小走りで近寄っていく。
あぁ…ウソだってもうバレたんだな…と思った。
拓人はクセなのかすぐウソをつく。
リアリティー溢れる。
初めて聞く人は、それが本当なのだと信じる事も多いが、付き合いの長い人は『あぁまた言ってる』と流すようになる。
由衣にも勿論付いてきたウソは、最初驚いていたが、最近じゃよく流されるようになってきた。
(呆れられるって分かってても付いてしまう…『クセ』って恐い恐い)
満開の八重桜と戯れる由衣を見ながらそう思った。

