『社会人』と呼ばれるようになるまで一年を切った拓人の生活は、ようやく就活の忙しさから解放されそうになっていた。

というのも、内定を一つ、もらえたのだ。

そんな有名ではない企業だが、福利厚生は整ってるし、上司となるだろう方々もいい人ばかりだ。

様々な所に落ちてきて、"祈られグセ"がついていた拓人は、それでも拾ってくれた企業に多大なる感謝と敬意を表している。

内定を一つ得ただけで、拓人はもう就活が終わったような気になっていた。

今まで合同企業説明会の数々のブースに足を運び、企業訪問を繰り返し、神経がすり減っていた拓人は、内定を一個もらうだけで神経の糸が切れてしまったようで、"もういいや"感で満たされてしまった。

廻りの皆も就活はそれぞれ頑張っているみたいだが、この時期になると少し早い"五月病"が訪れてしまうようで、なんとなく気だるさが漂っていた。


「──…なぁ、カッコウの親鳥は自分で雛育てねーらしいぞ」


中が窓の外に目をやりながら、感慨深げに言った。