「そういや、卒アルねぇの?」


りゅーじの声に、僕はクロゼットの上方を指差した。
これまで幾度となく卒アルを見返していたので、置いてある位置は完璧に把握していた。


「そこ?ちょっと失礼…っと」


クロゼットを見上げながら立ち上がったりゅーじは、少しバランスを崩した。


「っとと」


りゅーじが側に座るたっちゃんにもたれ掛かる。
その瞬間、ある情景が頭に浮かび上がった。


「…俺はそんなシュミねぇぞ」
「わりぃわりぃ…って俺もねぇよ!」


『──危ないっ』
『へへっごめん滑っちゃった──』


卒アルを見て昔を懐かしむ場面。僕にとっては貴重な時間だ。高速に流れていく、友人が来てくれた時間の中では、特に。

…だが、浮かび上がった記憶は、その場に留まり続けた。


「──おっ、これだれか覚えてる?」
「ん~誰だ?チューわかる?」


卒アルを見て楽しんだ声を発する二人。僕を慮ってくれているのに、二人が違う空間にいる風に、僕は感じた。
水面に勢い良く浮かんできたボールが、そのままプカプカと目立つ位置をキープし始めたようだった。