勢いよく家をでた私をむかえたのは


家の前の満開に咲く桜並木だった。


思わず、

「きれい……」

と囁いた自分にすぐ後悔のなみが押し寄せてくる。



桜を見ると『綺麗』と思うと同時に、いつも『悲しい』と。
何か忘れてはいけないものを忘れている気持ちになった。



それは何故だか分からない。

だから私はいつもこの季節の桜が『好き』であり、また、『嫌い』でもあった。



そんな事を思いながら歩いていると、向こうから見知った人がこちらに手を振っているのが見える。

私は目に神経を集中させ真剣な顔で見ていたが、2秒後には笑顔でそこに走っていた。


桜のことなど頭にはもうなかった。