ひとつ、ため息をこぼす。

そのため息は風の中に溶けていった。

「本当に…………終わったんだな。」

そして、さっきの出来事を反芻する。

…………やばい。泣きそう…………
ここ、学校なのに…………

ふと、頭の中にレイの顔が浮かぶ。

『助けて欲しい時だけ呼んで?』

今はどうしてもひとりになりたくなかった。

レイに会いたい。

…………どうやって?

泣きながら校舎を歩き回るのはごめんだ。

そうだ…………

私は近くにあった細長い葉を一枚ちぎった。
そしてその葉を自分の指先にあてて、滑らせる。

その指はじわりと赤くなり、やがて血が出てきた。

それを見ていると、地面を踏む音が聞こえた。

足音だけでわかる。

「レイ…………。」

 「…………手、見せろ。」

レイは、そう言って私の手をとると、指を握って傷を治してくれた。

「来てくれないかと思った。」

朝、私はレイを傷つけた。
守ってくれようとしたレイの気持ちを踏みにじった。

それなのに…………

 「馬鹿、来ないわけないだろ。」

そんな優しい言葉かけないでよ。

涙が…………止まらなくなるから。

次から次に落ちる涙を隠すように、私はレイの胸に顔をうずめた。

レイは、そんな私に手をまわすと理由も聞かずに抱きしめてくれる。


私はその温もりを感じながら、たくさん泣いた。