「――俺と萌々の部屋の間にあるクローゼットを開けるとそこはまだ微かに血の匂いがする。血痕だって全てを消しとることは出来なかった。・・・・・・1度だけ、開けたことがあるんだ。その時――」


むせかえるほどの血の香りと、大きな血だまり。

冷たくなった彼女の姿。

半年経ってもまだ、そこにはその光景が広がっていた。

――いや、ありえないことはわかってる。

あのとき野沢涼子は遺体を彼女の親族の元に引き渡し、血を拭き取ってくれた。

つまり、これは幻覚にすぎない。

しかし未だに実物と見紛うほど繊細に映し出されるのだ。

俺がいなければ彼女は今も生きていた。

俺がもっと早くに突き放していればこんなことにはならなかった。

俺が・・・・・・


――俺が殺した。


気持ちが悪くて仕方ない。

彼女が死んで、俺だけが生きているその状況が・・・・・・