「そんな緊張しないで?」

はっとして、私は意識をここに戻す。

先ほどとは打って変わってセオさんは普通に笑っているように見える。

「…………よろしくお願いします。」

 「あぁ。大体のことはもう知ってると思うけど、聞きたいことがあったら聞きな?」

あれ……今は、いい人…………?

「……陽の光は、平気なんですか?防燃剤ですか?」

管理人室に陽が差し込むことはあるし……毛先だけ、色が変わっていたのが気になった。

「防燃剤はつけてないな。でも眼鏡と帽子をしてるし、屋根だってある。あとは…………慣れかな。」

慣れることってあるんだ…………。

「でもずっとここにいますよね。血は、いつ吸ってるんですか?」

いつ外に出ても、管理人室には人影があった。

 「あぁ、それはね…………」

セオさんは後ろの棚からビンを取り出した。

栄養ドリンクかと思ったがパッケージの文字は違った。

「……血液、ドリンク…………?」

 「人工の血液をドリンク化したものさ。味はまずいけど生きていける。」

「え、え、じゃあみんなこれを飲んだら誰の血も吸わないで生きていけるんですか?」

 「まあね。でも純血種だったり愛しい人がいたりすると、このドリンクは効かないことがある。レイは……両方に当てはまるよね。」

え…………

 「…………否定はしない。」

レイって純血種なの?

純血種って普通のヴァンパイアと何が違うんだろう?

それに、愛しい人って…………

私だったらいいなと思う。

手だって繋いだしキスもした。

けれど、キスはおまじないのためだし、手を繋いだのだって私のことを気にしただけでなんてことないものだったのかもしれない。

そう、思わなきゃ。

期待してはいけない。

だってもし期待したら、そうじゃなかったときすごく恥ずかしい。

それに、レイの後ろにある今まで歩んできた道はとてつもなく長い。

その中のほんの一瞬でしかない私は、レイを知らなさすぎる。


その事実がなによりも私の期待を揺るがすのだった。