私がそこに行くと、先客がいた。

先客は、私の姿を見ると声を上げる。

 「萌々……!なんでここにいる…………!?」

「あなたは…………誰ですか?」

私は嘘をついた。

すると先客は少し目を見開いた後、肩を落とした。

 「……すいません、失礼します。」

彼の態度は、あくまでも他人行儀だった。

そんな彼の背中にそっと声をかける。

「……レイ…………」

振り向いたレイは今度こそ驚いた顔でこちらを見ていた。

しばらく目線が絡まった後、先に口を開いたのは私だった。

「私、昨日眠れなくって。」

 「…………じゃあ……!」

「うん、全部覚えてるよ。レイと出会ったときのことも、一緒に笑いあったことも、初めて手をつないだ日のことも、たった1回おまじないのためにキスしたことも…………昨日、レイが私の記憶を消そうとしたことも。」

左手をかざした時のあの泣きそうな顔だって、全部。

「…………そっか、ごめん。」

レイ、気づいてる?

昨日から謝ってばっかなこと。

…………なんで、そんなに申し訳なさそうにするの。

「……レイの馬鹿…………っ!」

「なんで…………なんで私の記憶を消そうとしたの!今、私からレイの記憶を消したら、高校生活の記憶を消すようなもんじゃない…………!」

それほどに大きかった。

本当はわかってるの。

どうせ…………これも私の為にやったんでしょう?

たった2ヶ月分のレイしか私は知らないけど、そのくらいわかるよ。

私だって、レイの優しさに何度も救われたんだから…………でも……それでも…………!

「私は・・・私の中からレイを消したくないよ…………。」

自分でもびっくりするほど情けない声が出た。

それと一緒に涙まで…………。

あーあ、ほんと、こんなつもりなかったのにな。

馬鹿はどっちだか。

  そんなことを考えていると、レイが口を開いた。

 「うん…………ごめん。」

また謝った。

でも、その言葉にはちゃんと別の意味がこもっていた。

その証拠に、レイの手が優しく……けれども強く、私を包み込んだ。