神戸の町外れにある、小さな古書店に、それはあった。


ハードカバーで初版物。かなりの美品だ。


「たまたまよそで見つけて、面白そうだったんで。いいですよお譲りしても」


仕入れというよりは、半分趣味で購入したらしい。


「ただし、プレミアもんで、それなりにしたんで、お安くはないですが」


「えっ、い、幾らなら…?」


右の掌を差し出し、


「これで」


「ご、五千円…??」


「ゼロひとつ、足りません」


言葉をなくす琉ヶ嵜。


「はっ…?」


そういう売り方か。足元を見られた。


「即金では無理でしょうし。後日振り込みでもいいですよ?それから送りますんで」


「……お願いします」


渋い顔で、それしか言えなかった。