改めてメモの字を見ると、本人の字ではなさそうだ。年配の手による文字と思われた。
長年の経験から、色んな文字を見てきたが、半分濡れて滲んで読み取り辛い。
「うーん」
珍しく困った琉ヶ嵜。
大抵の本は見たことくらいある。どんなマニアックな本でも。
ただ、もしかしたらどこかの古書店にでもありそうな本だと、直感が働いた。
「わかりそうですか…?」
大きめのタオルを渡して、店の奥の部屋に雨が収まるまで座らせていた。
「…どういうものなんですか?」
ゆきが、暖かい缶コーヒーを買ってきた。
「……祖父の遺品で、過ってその本だけ処分してしまったんです」
そこらの大型書店でも、隅に置かれているかどうか。
ましてや、こんなところにはあるはずがない。

