そしてその男は現れた。
「この本を」
琉ヶ嵜が配達で留守のとき。業平も体調不良でいなかった。
一人、ハタキを掛けながら店番をしていた靖美。
手書きのメモを持った男が一人。30代に見える、背の高い、スーツ姿の小綺麗な紳士だった。
手渡されて見ると、古そうなもので、こんなところにあると思えない本のタイトルが書かれていた。
「あの、わかりかねますので、ご連絡先お聞きして、お電話差し上げましょうか?たぶんお取り寄せになりますし」
「では、お願いします」
胸元から出した万年筆で、すらすらと名前と連絡先を書く。
にっこりと微笑むと、
「可愛いお嬢さんですね」
と言い、物静かに去った。

