「この本はそこじゃない」


「あっ、すみません…」


入って3ヶ月のアルバイト、久我靖美(コガヤスミ)に、きつく口を出す支店長の琉ヶ嵜巽(リュウガサキタツミ)。


45歳になる琉ヶ嵜は、180㎝で肩幅広く、顔立ちもすっきりと整い、見た目は良かったが、その気難しさからか未だ独り身だった。


もちろん今まで、それなりに女性とも付き合ってきたが、その結果、本人は、独り身が楽だからという結論に達したのだ。


大学を出、何度かの転職を経て、身内の経営するこの本屋に腰を下ろした。


数店舗ある店を一通り任され、その中の一店舗であるこの店の店長に収まっていた。
本の匂いが一番落ち着くようだ。


男女の惚れたはれたは煩わしく、テレビや小説の中の話だけで、もう腹一杯だった。


基本的に感情を表に出さない。その表情を変える相手もいないまま、この年になってしまった。


案外器用で、家事は一通りこなせるが、こと食事に関しては、最近は億劫で作ることはない。


一方の靖美は、高卒で地方から出てきて25歳になる。


160㎝でスタイルもよく、黒目がちの目のぱっちりとした可愛らしい顔立ちの色白美人だった。


背中まで伸びた黒髪は後ろでシュシュで束ねてあった。