「星野、」
……とか言っても、向こうは私のことなんて”お隣さん”としか思ってない。まだ数回しか話したこともない。
「星野。おい」
たまたま会ったときの挨拶以外で話すきっかけとかあれば、もう少し近付けるかもしれないけど……そう簡単にいったら苦労しない。
「星野ー。……コラ!まだ寝てんのかお前は!」
「わっ!な、なに!?」
「なに、じゃねえ!そんなに俺に名前呼んでほしいのかよ!?」
「はあ?なに言ってんの滝本」
肩をポンっと叩いてきたのは、会社の同期の滝本尚也(たきもとなおや)だった。
滝本とは入社以来ずっと、いい友達だ。
たまに一緒にご飯に行ったり、仕事の相談を聞いてもらったり、何かとお世話にもなっている。
「なにぼーっとしてんだ。あ?あれか?なんか悩み事か?」
「んーん…。悩み事っていうか、恋煩い?」
「こっ………!?」
ぎょっとした様子で私の顔をまじまじと見て、信じられないというように首を左右に振った。
「しばらく男の影がないと思ってたら…。ややこしいのに捕まってんじゃねえだろうな?」
「捕まるとかそういう段階ですらないの。あー…心臓かゆい」
わざとらしくため息をついて、目の前にあるパソコンの画面を睨みつける。一旦中断しようと、作りかけの資料のデータを保存した。


