ディスペア

 「もう、来てたの!?」

優人が息を切らして走ってきた。

 「荷物それだけ!?」

「…………え、うん。」

そう言えば優人の荷物がやけに多い。
だって、財布と服と、タオルと、………を持ってくるだけでしょ?
だから私はいつも使ってるこの鞄を持ってきただけなのに。

「ねぇ、その中何が入ってるの?」

 「え、服と、食べ物と、………地図と、ばんそこうと、………」

いや、女子かよ!
聞くんじゃなかった………

「………と、家族の写真と、あと………」

あ………
写真か…………
私、一枚も持ってないや。
すると、それを悟って優人が声をかけてくれた。

 「あと、カメラも持ってきたんだよ!いっぱい写真撮って、いっぱい想い出作ろう!」

「…………うん。」

この一言で私の波打つ心は一気に穏やかさと明るさを取り戻す。
優人の言葉は魔法の言葉。
いつも私を救ってくれる。

 「行こっか。」

だから私はその言葉に素直にうなずいた。
目の前にあるのは駅。
私たちの旅は、ここから始まる。

 私たちは電車に乗る。
目的地は、此処ではないどこか。
 朝一番の電車はとても静かで、この号車は私たち二人だけだった。
それでも私たちは、二人寄り添うようにして座った。
電車の音が私の体に心地よいリズムを刻む。
私たちはこの電車で行けるところまで行くことにした。
 私は昨日、遠足の前の子どものようになかなか寝付けなかった。
だからかな?
さっきからずっとウトウトしてる。
勿論、終点まで行くから途中下車する必要もない。
安心すると、さらに…………
麻彩はそのまま、眠りについた。
隣にいる彼に、寄りかかりながら。


 唇にそっと、なにかが触れる。
私はそっと、目を開ける。
目の前にいるのは優人。

「…………夢?」

電車が止まる。
車内は大きく揺れる。
私の体も大きく揺れて……

………………夢じゃない!

 私の頭は叩き起こされる。
え、でも今……優人の唇が確かに……

「…………ぇえっっ……!!」

だって今……今………っ……!!

「キキッ……キ…ス………した!?」

私は自分でもビックリするほど取り乱していた。
優人が顔を赤らめて目を反らした。

 「…………したよっ!!」

え!………嘘っ……!!