ディスペア

「……………ねぇ。」

私は、覚悟を決めて声をかけた。

 「ん?なぁに?」

うつむく私に、彼は優しくささやいた。
だから私は、安心して少し話しやすくなった。

「あのさ、私ね………前、母を………」

彼は一瞬表情が凍りついたあと、私の言葉を遮った。

「ねぇ、パフェ食べに行かない?」

ひきつった笑顔でそう聞かれた。
ねぇ、今確かに遮ったよね……?

どうして?

それから彼と何を話したか私はおぼえていない。
 まだ5時なのに真っ暗な冬の空の下。
このまま、不安な気持ちで家に帰りたくない。
もう一度、話してみよう。

 「じゃあ、ここで。」

「待って。」

彼は困った顔をして、こっちを向いた。
まるで私に『言わないで』といっているようだった。
でも、もう引けない。

「私………自分の母親のこと、こ………」

 「だめっ!!」

殺した。
その言葉は闇の中に消えた。

 「言わないでっ!お願いだから!!」

なんで?
なんで話しちゃだめなの?


 「………ごめんね……」

彼の口から出たのは、謝罪の言葉だった。

 「僕は最初から君を裏切ってたんだ。」

私は、自分の耳を疑った。
彼は、言葉を続ける。

 「僕のお父さんは刑事なんだ。」

嫌な予感がした。

 「まわりはみんな事故だって言ってたけど、お父さんは君のことを疑ってたんだ。」

もうこの続きは言わなくてもわかった。
でも、言われたくない。
言わないでっ!
そんな望みは叶わない。

 「だから、証拠を見つけるために、僕は君に会いに行ったんだ。」

彼は、今まで見たことのない目でそういった。
私の背筋が凍る。

じゃあ、全部嘘だったの?
私を包み込んでくれた優しさも?
あの笑顔も?
裏切らないって言ってくれた、君の瞳も?

 「本当は初めて会ったときに、君が殺したってわかったんだ。」

 「だって麻彩の目は、闇に飲まれていたから。」

!!!

気づいてたんだ………あの日から。

 「でも空っぽな君を僕はどうしても放っておけなかったんだ。」

あ、なんだ……
彼は私を裏切ってなんていない。
だって、あの笑顔はきっと本物だったから。

 「君と話すのは、とても楽しかった。ずっとこれが続けばいいと思った。」

本当に騙そうとしているなら彼はこんなことを言わない。

 「でも僕はさっき君の母の事について、真実を知ってしまった。だから……」

 「だから行かなくちゃ。」

彼が、言葉を詰まらせながら言った。

 「今までありがとう!………ごめんね。」

 「でも、世の中にはちゃんと良い人もいるから。」

そう言って寂しそうに笑った彼は、私に背中を向けた。

 「人…………嫌いにならないでね。」