ディスペア

『俺と、少し散歩しませんか?』

そんなことを言われるなんて思わなかった。
普通は学校に来いとかさ、そんな感じじゃないの?
でも、そう言われても私は絶対動かない。
それも分かってて言ってるのかな?

バカだな私……嬉しいと思ってしまった。
感情なんて無くしたはずなのに。
でも………

「でも……私、左足が悪くて……」

あぁ、帰っちゃうのかな……?

「あの……とりあえず、外の空気を吸うだけでもどうですか!?」

え?
帰らないの?
まさか食い下がってくるとは思わなかった。
だったら………

「じゃあ………ちょっとだけ。」

そう言ったのにキミはどうして浮かない顔をしているの?

 このころの私は、笑顔の裏にある彼の思いなんて知るよしもなかった。


 あぁ、久しぶりだな。
こんなに近くで鳥が鳴いてる。
髪に触れる風も心地いい。
それになにより………

「空気がさっぱりしてる……」

「うん、ずっと部屋にこもってたんだもんね。」

そう言うと、彼は微笑んだ。
あ、……普通に笑ってる。
なんだ、さっきのは勘違いか。

 そして私たちは、近くの公園を散歩した。
彼は学校の話をしてくれた。
中2の時と違って、みんなが授業をしっかり聞いていることとか……

 彼は私に歩くペースを合わせてくれる。
優しい人だなと思った。
それにつられて、私の心はずいぶん落ち着いていた。

「そろそろ帰ろっか。」

「うん………。」

もう会えないのか。
すると彼はそれを悟ったかのように呟いた。

「僕、明日もさっきと同じ時間にここの公園通るんだ~。」

嬉しかった。
また、来てもいいと言われてるようで。
 そして私たちは手をふって帰った。


 あれから1週間、今日も私たちは公園を歩いていた。
彼が目の前の鉄棒に触れた。

  ビクッ………

私の記憶があの頃に戻される。
父や母の右手を思い出す。
銀色の硬いものをもって、そして……
私はまた……あの手で………
やだ………怖い……

 私がついてこないことに気づいた彼は私のところまで戻ってくる。
全身が震える。

「どうしたの!?」

怖い……怖い……怖い……

「やだっ来ないで!お願いだから……殴らないで………!!」

私は、彼に両腕を掴まれた。
力が強くて逆らえない……
私は必死であがく。

「僕を見てっ!」

彼が、大声でそう叫んだ。
私は彼を見る。

あ………優人だ。
いつも優しい優人だ。
私は少し、落ち着いた。

………でも、お父さんやお母さんみたいに優人もいつか………
………私を裏切るかもしれない。

「どうせ、優人も私を裏切るんでしょ!!」