ディスペア

逃亡するのならすべて捨てなければならない。
家族も、勉強も、友達も…
リュックに入ってる家族の写真。
夜な夜なしてた勉強。
友達がくれたというキーホルダー。
優人はなにも捨てきれていない。
でも、もう全部捨てたって自分に言い聞かせて私の為に笑顔を作った。
それはきっととても辛いことだったろう。

………もう、十分だよ。

私は優人に優しさをもらった。
大きな愛をもらった。
つかの間の幸せをもらった。

………もう、十分だよ。

こんなに沢山のものをもらったのに、優人の幸せを奪うわけにはいかない。
今ならまだ間にあう。
今引き返せばきっと間にあう。

優人を……解放してあげなくちゃ。


ずいぶん長い時間電車に乗った。
駅を出て、歩き出した優人を引き止める。

「山の中に入らなくても、この辺でいいんじゃない?」

もう、帰ろう。
その言葉は、喉につっかえて出てこなかった。


次が最後だ。
私は次に警察に見つかった時、この逃亡生活に終止符を打つ。
そんな日が、来なければいいと何度も、何度も思った。
でも、これは私なりのけじめだ。
この誓いを私は絶対に破らない。
そう、決めていた。




“次”は無情にもすぐに来た。

でも、予想どうりだった気もする。
パトカーが5台も止まっている。
優人が警察の息子ということもあって、結構な大事になっている。
ここに来るのも時間の問題だろう。
優人は私の手をひいて逃げようとした。
私はここに踏みとどまる。
そして、覚悟を決めた瞳で彼を見つめる。
彼も私を見た。
彼の目が言わないでと叫んでいる。
私は心の中で切なく笑った。
私はいつも優人の“言わないで”を無視するね。

「優人……終わろう。」

彼は悲しそうにしたその目をそっと閉じた。
何も言わない。
でも、私たちにはそれだけでよかった。

優人が目を開けた。
私と優人はしばらく見つめ合った。
伝えたいことがありすぎて、何も言えなくなった。
ごちゃごちゃの頭の中から一言ずつ言葉を引き出す。

「………………好きだよ。」

声を出した瞬間、私の目から涙が溢れた。

「ちゃんと……人、好きになれたよ………!」

優人のおかげなんだよ!

「ありがとう…………ありがとっ……うぅ……!」

今まで本当にありがとう。