明日へ馳せる思い出のカケラ

 それなのに結果はこれ以上無いほどの残酷な結末に至ってしまった。
 だって君にしてみれば、親友であったはずの彼女を失うと同時に、すがるべき対象であった俺って存在まで失ってしまったんだからね。

 君がどれほどの痛みを伴ったのか。それは想像することも出来ない。
 親友との決別。それは君に耐え難い苦痛を強いたはずだ。でも君はそんな時に俺が傍にいてくれたら、俺だけが寄り添ってくれさえすればって願っていたはずなんだ。

 でも君と彼女の関係を破綻させた原因は、皮肉にも【俺】っていう存在なんだよね。

 これを絶望と呼ばずに何て言えばいいんだろう。
 そこまでの痛みを強いる悲観的な理由なんて、君にはまったく無かったはずなのにね。

 もちろん俺だって君にそんな辛い想いをさせたいなんて思いもしなかったはずだ。
 それなのにどうしてこんなにも悲しい結末になってしまったんだろうか。

 考えが及ばないほど君を傷つけてしまった。
 でも俺がいまだに自責に駆られる要因はそれだけじゃなかったんだ。

 君に与えてしまった苦痛だけでも遺憾極まりないっていうのに、俺がつらい痛みを強いたのは君だけじゃなかったんだよね。

 そう、新しい関係を始めたはずの彼女の心にも、俺は深い傷を負わせてしまったんだ。


 彼女と始めた新しい暮らし。
 でもそこに愛情という温もりは微塵にも見当たらなかったんだ。

 だって俺の頭ン中はいつだって君の事ばかりで、そこに根付いた深い想いを断ち切るなんて不可能だったからね。

 彼女は異性と付き合う事が初めてだった。
 いや、そもそも他者を愛おしく慕う行為自体が初めてだったんだろう。

 体に抱える病気の事情もあるら、それは別に驚く問題じゃない。
 でも初めて想いを寄せた異性と付き合うってのは、誰にしてみたって大切な出来事のはずだよね。

 だからたとえ俺にその恋を成就させるだけの能力が無かったとしても、それに対する丁寧さを忘れてはいけないはずだったんだ。
 それなのに俺は彼女の気持ちを粗雑に扱ってしまった。

 表面上はかなり勝気な性格の彼女。
 でもその内面は人一倍奥手な性質だったんだってことを俺は知っている。

 彼女が誰よりもお喋りなのは、そんな奥手な自分を隠すためのカモフラージュだったんだろうね。
 そして本来であれば、俺はそんな彼女の胸の内を優しく支えてあげるべきだったんだ。

 人前では強がっているものの、俺と二人きりの時に見せた彼女の自信の無い姿はとても弱々しいものだった。
 異性と二人きりになる事に気恥ずかしさを覚えていたのかも知れない。
 でも俺が察するに、もしかしたら彼女は君との関係が途絶えた事実を後悔しているのではないか。いや、少なくとも心の片隅にはそんな気持ちの迷いが存在していたはずだ。そう思えてしまったんだ。