俺は彼女に促されるまま、その正面の席に腰掛ける。
 すると彼女は微笑みながら告げたんだ。

「心配しなくても大丈夫だよ。今日は彼に招かれて快気祝いを楽しみに来ただけだから」ってね。

 でもその言葉に俺の胸の内は大きく震えた。
 軽く微笑む彼女の笑顔から極度の訝しい印象を抱いてしまったんだ。

 俺の疾しい気持ちが君への後ろめたさを隠したいが為に、彼女という対象を悪者に仕立て上げたのかも知れない。

 だって彼女が俺に望まなければ、こんな不条理な気持ちになんて、ならなかったはずなんだからね。
 その反応の表れが、彼女から感じた訝しさだったんだろう。

 俺は彼女に自分の犯した罪を全てなすり付け、重苦しい心情から解放されたかったんだ。
 お互いに大切な存在であるはずの【君】に対して、同じ罪を犯してしまった。
 でもその主因は彼女にある。だから俺は悪くないんだって感じにね。

 しかし飲み会が開始されてからは、それまで感じていた不愉快な感覚は影を潜めてしまった。
 酒に酔った勢いで増々饒舌になってしまった、彼女の止まらない話しに呑み込まれてしまったからなのか。

 ただ彼女は君に全く関係ない話しばかりをしていたからね。
 そんな彼女の口ぶりに俺は安心したんだろう。

 きっと彼女はつらい想いを振り払えたんだ。
 そしてもう俺や君を祝福出来るくらいに気持ちの整理を付けられたんだ。
 だから彼女は俺と君の関係に亀裂が生じている状況を知った上でも、何も無かったかのように振る舞っていられるんだ。

 俺はそう思ったんだよ。
 そして淡い期待に胸を膨らませたんだ。
 きっと彼女なら俺と君との関係を修復する手助けをしてくれるだろうってね。

 だって俺と君の関係が極度に悪化した理由は、彼女との病室での一件が原因なんだし、彼女だってそれを十分認識しているはずだろうからね。
 だから俺はそう期待せずにはいられなかったんだよ。

 でもその期待は、最高潮に達した彼女のテンションが弾け切った事で裏切られてしまったんだ――。