だって今はまだ姿を見せてはいないものの、この場所には君も来るはずなんだからね。

 そんな俺の尻込みする姿勢に、彼女はどこか薄笑いを浮かべる様にして口元を緩めていた。
 その表情に俺は胸クソの悪さを感じずにはいられない。

 彼女は一体何を考えてるんだ。
 病室であんな事をしてしまったのに、よく平然とみんなの仲に入って来れるモンだ。
 俺はそう思わずにはいられなかったんだ。

 ただそんな俺の胸の内をスルーして、彼女は淡々と告げた。
 君は今日、就職先で行われている何かしらの説明会に出席している。その為にこの飲み会には少し遅れてしまうらしいって事をね。

 でも君は必ず来る。彼女はそうも付け足したんだ。
 まるで俺の心を強く揺さ振るかのようにね。

 でもそれ以上に俺が気を揉んだのは、彼女が俺と君の現状を知ってしまったって事なんだよね。

 キャプテンだった彼は今回の就職祝賀会の参加を君に呼び掛けるため、あえて彼女を経由させて連絡を取ったんだ。
 まぁ、その成り行きはたまたまだったんだろう。

 彼は君のものより先に、彼女の連絡先を入手した。
 そうなれば親友である彼女から君へ連絡してほしいと頼むのが自然の流れだろうからね。

 ただそこで彼は無用な配慮を彼女に口走ってしまったんだ。

 俺と君の関係が上手くいっていない。
 それを今回の祝賀会でどうにか修復させよう。
 彼は彼女に対してそこまで言ってしまったんだよ。

 彼女がそれをどう思ったのか、それは分からない。
 ただ理解出来る事実とすれば、それは彼女が君に連絡を取りついだっていう事と、遅れはするものの君は必ずこの場に駆け付けるっていう事なんだ。

 釈然としない歯がゆさが込み上げてくる。
 君に会うのが怖いからなのか。ただ単に臆病風に吹かれているだけなのか。

 いや違う、それが理由じゃない。
 ならどうして俺はこれほどまでに嫌悪感を抱くのだろうか。

 その原因の正体を俺は直感として肌で感じてはいたものの、でもそれを受け止める事を否定していた。
 だって縦にした人差し指を自身の唇に押し当てる彼女の仕草に、俺は気圧されて茫然としまったんだよ。