明日へ馳せる思い出のカケラ

 それなのに俺は積極的に君の話を聞こうとはしなかった。いや、むしろ煩わしく思うほどに、君をないがしろにしてしまったんだ。

 話し半分に君のおしゃべりに付き合いながら、携帯ばかりを見てしまう。
 それが怠慢な素行なんだということは十分に理解している。だけど俺は身勝手にも、自分だけの楽しみにしか悦びを見出せなかったんだ。

 自分を犠牲にしてまでも、この先ずっと君を守り抜こうと決意したはずなのに。
 その想いは決して嘘なんかじゃなかったはずなのに。

 夜が明けるまでに遊んだ挙句、薄らと明るくなる空を見上げては、俺は次こそは君との時間を大切にしなければと自責に駆られた。
 こんな事ばかりをしていたら、いつの日か君が俺の元を去ってしまうんじゃないかって、怖くなったんだ。
 でも仲間達からの誘いが来る度に、その感情は露と消えた。

 どうしてそんなにも彼らと遊ぶのが楽しかったんだろうか。
 初めて共有する男友達とのバカな結びつきに、ただ夢中になってしまっただけなんだ――なんて、とても理由としては解釈出来ない。
 そしてもう一つ理解出来ない事がある。それは君が俺に対して腹を立てなかった事だ。

 どうして君は無責任な俺に不満をぶつけなかったんだろうか。いや、それどころか愛想を尽かして立ち去ったとしても、俺は文句も言えなかっただろうに。
 それなのに君は健気にも、俺を待ち続けていてくれたんだ。

 君がどれほどの想いで俺に気持ちを寄せていたのか。不覚な事に当時の俺には考える由も無かった。
 いや、そもそも俺は君の気持ちを理解する以前に、君の想いになんて気付きもしなかったんだ。
 そしてそんな浅はかな俺の態度が、さらに君の気持ちを踏みにじってしまったんだ。
 君はいつでも俺の事だけを見ていてくれたっていうのにね。


 後期試験が始まる前の最後の週末。俺は久しぶりに君とのデートに出掛けた。
 それも夏以来となる皇居外苑でのジョギングデートだ。

 俺の大学は試験の1ヶ月前より、強制的に部活動は休止になる。だから体を動かすのは久しぶりだったんだよね。
 ちゃんと走れるのか少しだけ不安を感じる。でも君の笑顔に釣られて俺は走るのを決めたんだ。

 勉強疲れをリフレッシュさせる行為として、君は俺をジョギングに誘ったんだろう。
 気持ちの良い汗を流す事で、改めてテストに向けて気合を入れ直す。君はそう考えたんだ。