マジかよ。

 いや、俺だって君が言う様にみんなの気持ちは本当に嬉しく感じているんだ。
 だけど飲み会に行くなんてまっぴら御免なんだよね。だって彼らが祝いたいのは俺が叩き出した成績についてであって、それを口実にしてバカ騒ぎしたいだけなんだからさ。

 そして俺自身については相変わらずの日陰者扱いなんだろうし、場合によっちゃぁ君との関係についても有る事無い事揶揄されるだけなんだろうからね。
 それに根本的な問題として、俺は飲み会のハイテンションなノリについていけないんだよ。どこかそんな雰囲気に気持ちが引いちゃうんだ。
 恐らくみんなの輪に上手く入り込めない事が、俺の心に疎外感を抱かせてしまうんだろう。
 結局のところ、他人との関わり合いが怖いんだよね。

 でもその時の俺に逃げ場は無かった。諦める以外に選択肢を見つける事が出来なかったんだ。
 だってそれほどまでに俺が勝ち取った入賞という結果は、輝かしい価値を生み出してしまったんだから。

 君が隣に居てくれる事だけを救いにして俺は覚悟を決めた。
 どんな冷やかしがあろうと耐え抜いてみせる。今まで散々陰口を叩かれてきた俺だ。この期に及んで怖気づく必要はどこにも無いはずなんだって感じにね。

 俺はそう強がりを決めて胸の内を騙し続けた。恥ずかしい話しだけど、そうしなければ足がすくんで動かなくなりそうだったんだ。


 キャプテンの彼に促されるままに俺は打ち上げ会場へと足を運ぶ。
 そこにはさほど言葉を交わしたことの無い同輩達が、数多く詰めかけていているはずだ。そしてその同輩達とこれから数時間に渡り、肩を並べて酒を飲を酌み交わさなければいけない。
 そう考える俺の背中に走ったのは、レースに臨んだ時とはまったく違った緊張感だった。

 アルコールについては嫌いなほうじゃない。いや、むしろ家ではよく飲むほうだ。
 でも酒の味っていうのは、その場のムードで激変するモンなんだよね。
 だからこれから飲む酒が、たとえどんな銘酒であろうとも、苦くて不味いものだということは容易に想像出来た。

 君と二人きりで祝賀会が出来ればどれだけ幸せなんだろうか。そう思わずにはいられない。
 いまだ現実味の無い大会結果を君と一緒に振り返り、それが本当の事なんだと確かめ合う。
 そして嬉しさを共に分かち合いながら、熱く甘い夜を過ごす。それが高望みだというのだろうか。

 レースの疲れとは明らかに異なる足の重さを感じながら、俺はキャプテンに従い席に着いた。
 少し小さめな居酒屋を借り切った打ち上げ会場は、詰めかけた陸上部員達でびっしりと埋まっている。
 そして代表であるキャプテンの彼の挨拶で打ち上げは幕を開けた。