ただ俺が部の連中との接触を控えていた為に、君は俺と触れ合う機会を設けられなかった。
君の性格からして、用も無く自分から話掛けるなんて出来るはずも無いだろうし、まして告白するなんて行為が出来るはずもない。それに俺が陸上部で孤独に浮いた存在だった事も障害の一つだったんだろう。
自分ではそんなつもりは無かったけど、周りから見れば俺は一風変わった独特な感性の人間に見えていたはずなんだ。そんな俺に好意を寄せているなんて、君自身の気が少し引けていたのも確かな心情なんだろうからね。
さらに加えて君は、俺に当時付き合っている彼女が居た事を知っていたんだ。だから忸たるも遠巻きで俺の事を見ていただけなんだね。
そしていつしか君は俺への想いを薄れさせたんだ。
でもあの日、偶然にも俺と君の時間軸は交差してしまった。ひとけの無いグラウンドで彼女の身に降り掛かった突然の災厄。君はそんな彼女を助ける為に、たまたまその場に居合わせただけの俺に救助を乞うたんだ。
君は彼女を救おうと必死だった。だから助けを求めた相手が俺だったのに初めは気付かなかったみたいだね。夕方で少し薄暗かったことも影響していたんだろうけどさ。
それに当時の状況を思い返せば、君がかなり混乱していた事は覚えている。助けを願い出る相手の事なんて、一々気にしてなんかいられない。君は彼女を助けたいが為に無我夢中だったんだ。無理はないよね。
そして君は俺の右手を引っ張り彼女の元へと向かった。ただ現場に到着した君は、それが俺だったという事に初めて気が付いたんだ。
どうして【俺】がここにいるんだろう――って、君は一瞬困惑したらしいね。でも事態は緊迫していて、そんな些細な事に気を留めている暇は無かったんだ。
どうする事も出来ない君は、ただ大粒の涙をその大きな瞳一杯に浮かべるだけで、俺を頼りにする以外なかった。
そんな君の目に飛び込んで来たのが、迅速に救命活動を実施する俺の姿だったんだよね。そして君は俺の救命処置の手際の良さに目を見張ったんだ。
俺の心情では、現場に居合わせた為に仕方なく蘇生行為を行ったに過ぎないし、内心は逃げ出したい気持ちで一杯一杯だった。けれど君には俺のそんな脆弱な胸の内なんて想像すら出来るはずもなく、むしろ毅然とした姿勢で救助に臨んでいる頼もしい姿に見えたらしい。
そして彼女は無事に息を吹き返した。君はその事に涙を流して喜んだんだ。ヒザ枕する彼女の温かい体温を感じながら、本当に良かったとその嬉しさを噛みしめた。
でもそれと同時に薄まっていたはずの一つの感情が甦ったんだね。そしてその胸の高ぶりは、時間と共に少しづつ膨れ上がっていったんだよね。
消えかけていた淡い想いが事故への突発的な対応をキッカケに光を帯びる。
そう、君は以前に感じていた俺へのほのかな恋心を思い出したんだ。そしてその想いは、彼女が冷たくなった苦い記憶を思い返すたびに強まっていったんだ。
君の性格からして、用も無く自分から話掛けるなんて出来るはずも無いだろうし、まして告白するなんて行為が出来るはずもない。それに俺が陸上部で孤独に浮いた存在だった事も障害の一つだったんだろう。
自分ではそんなつもりは無かったけど、周りから見れば俺は一風変わった独特な感性の人間に見えていたはずなんだ。そんな俺に好意を寄せているなんて、君自身の気が少し引けていたのも確かな心情なんだろうからね。
さらに加えて君は、俺に当時付き合っている彼女が居た事を知っていたんだ。だから忸たるも遠巻きで俺の事を見ていただけなんだね。
そしていつしか君は俺への想いを薄れさせたんだ。
でもあの日、偶然にも俺と君の時間軸は交差してしまった。ひとけの無いグラウンドで彼女の身に降り掛かった突然の災厄。君はそんな彼女を助ける為に、たまたまその場に居合わせただけの俺に救助を乞うたんだ。
君は彼女を救おうと必死だった。だから助けを求めた相手が俺だったのに初めは気付かなかったみたいだね。夕方で少し薄暗かったことも影響していたんだろうけどさ。
それに当時の状況を思い返せば、君がかなり混乱していた事は覚えている。助けを願い出る相手の事なんて、一々気にしてなんかいられない。君は彼女を助けたいが為に無我夢中だったんだ。無理はないよね。
そして君は俺の右手を引っ張り彼女の元へと向かった。ただ現場に到着した君は、それが俺だったという事に初めて気が付いたんだ。
どうして【俺】がここにいるんだろう――って、君は一瞬困惑したらしいね。でも事態は緊迫していて、そんな些細な事に気を留めている暇は無かったんだ。
どうする事も出来ない君は、ただ大粒の涙をその大きな瞳一杯に浮かべるだけで、俺を頼りにする以外なかった。
そんな君の目に飛び込んで来たのが、迅速に救命活動を実施する俺の姿だったんだよね。そして君は俺の救命処置の手際の良さに目を見張ったんだ。
俺の心情では、現場に居合わせた為に仕方なく蘇生行為を行ったに過ぎないし、内心は逃げ出したい気持ちで一杯一杯だった。けれど君には俺のそんな脆弱な胸の内なんて想像すら出来るはずもなく、むしろ毅然とした姿勢で救助に臨んでいる頼もしい姿に見えたらしい。
そして彼女は無事に息を吹き返した。君はその事に涙を流して喜んだんだ。ヒザ枕する彼女の温かい体温を感じながら、本当に良かったとその嬉しさを噛みしめた。
でもそれと同時に薄まっていたはずの一つの感情が甦ったんだね。そしてその胸の高ぶりは、時間と共に少しづつ膨れ上がっていったんだよね。
消えかけていた淡い想いが事故への突発的な対応をキッカケに光を帯びる。
そう、君は以前に感じていた俺へのほのかな恋心を思い出したんだ。そしてその想いは、彼女が冷たくなった苦い記憶を思い返すたびに強まっていったんだ。
