明日へ馳せる思い出のカケラ

 新しい自分に生まれ変わろうと心に誓った今日という特別な日に、君と偶然にも巡り会えた。そんな奇跡に感謝の気持ちが止まらない。

 そして去り行く君の後姿を見つめながら、俺は胸の中で唱えたんだ。

「さよなら。大好きな君」

 心の中を少しの寂しさと虚しさが駆け抜けていく。
 でも不思議と悪い気はしない。ううん、どちらかと言えば、むしろ心はすっきりした気分を感じるくらいなんだ。
 きっと君の笑顔が俺の中の暗い影を、全て掻き消してくれたからなんだろうね。

 でも一つだけ心残りがある。
 結局のところ、俺は最後まで君に『ありがとう』っていう感謝の言葉を伝えられなかった。
 それどころか、逆に君から告げられてしまったくらいなんだ。

 まだまだ俺っていう男が弱い証拠なんだろう。
 でも後悔はしていないよ。きっと君は俺の想いを感じ取ってくれただろうって、そう思えているからね。

 そんな君とはもう、会うことはないだろう。
 だけど辛くはないよ。俺は走りだしたから。生きる目的を見つけられたから。

 そうなんだ。再びゴールへと向かい走り始めた俺は、その更に先にある目指すべき新しい目標を見つけていたんだよ。

 人を助ける仕事に就きたい。
 それが俺の導き出した新しい目標だ。

 彼の救護に駆け付けた医療スタッフの働きぶりを見てハッとしたんだよ。
 これこそが俺の目指すべき場所なんじゃないのかってね。

 安易な考えだって叱られるかも知れない。
 それはそうだよね。彼や彼女を救ったっていう達成感に浸り、満ち足りた気分を味わう心地良さを知ってしまった俺だからこそ、そんな考えを簡単に思い抱いてしまったのかも知れないんだからさ。
 でもね、俺は誰かの為になれる事がしたいんだよ。

 決して褒められたいとか、敬われたいとか思っているわけじゃない。
 ただ自分が弱いから、誰かを助ける事で自分に自信を付けたい。自分の存在意義を確立したいが為に、その道を進みたい。そう思っているんだよね。それが本音なんだよね。

 それじゃまるで偽善者になるだけじゃないか。
 そう思われても反論は出来ない。
 でもさ、人を助けるつらさや厳しさってやつも、俺は同時に理解しているんだよ。
 それが半端な決意で目指せる目標なんかじゃないって事も、十分理解しているつもりなんだよね。