明日へ馳せる思い出のカケラ

 俺は精一杯に笑顔を浮かべた。
 もしかしたら引きつっていたかも知れない。
 それでも今の君に差し向けられる表情として思い付くのは、笑顔しかなかったんだ。だから俺は今出せる精一杯の笑顔を浮かべたんだよ。
 そして最後に言ったんだ。

「俺が彼を全力で助けられたのは、きっと彼なら君を幸せにしてくれるんだって信じれたからなんだ。
 自分でもすごく不思議に思うよ。一度も話した事の無い相手を、これほどにまで信頼してしまうなんてね。
 でもどうしてなのかな。君と彼が二人でいる姿に、幸せな未来しか想像出来ないんだ。少なくとも俺にはそうとしか思えないんだよ。
 だから今は彼のそばに寄り添い、彼を癒してあげてくれ。そんな君の事を、彼ならきっと幸せにしてくれるはずだから。
 だからいいね。君一人で彼に付き添ってあげるんだ」

 君は無言だった。
 でも一度だけ、小さく縦に首を振ってくれたんだ。

 その姿に俺は胸を撫で下ろす。
 もう大丈夫だと、心から安心したんだろうね。だから本当の最後に、俺は君に甘えてしまったんだ。

「最後にもう一つだけ、お願いを聞いてくれるかな」

 涙を拭った君は、少し首をかしげて俺の問い掛けを待ち受ける。綺麗な瞳で真っ直ぐに俺を見つめながら。
 そして俺は満面の笑顔で告げたんだ。

「君も笑顔になってくれないか」って。

 君の肩より伝わっていた震えがゆっくりと収まっていくのが分かる。
 きっと君の中でも、心の折り合いがつけられたんだろう。
 そして君は一言だけ、俺に言ってくれたんだ。

「ありがとう」

 かつてないほどの輝きを醸し出す笑顔がそこにあった。

 心に深く浸透する和やかさを感じずにはいられない。
 君が見せてくれた最高の笑顔。俺はその笑顔が最後に見れて、本当に嬉しかった。