自分の為だけに時間を自由に使いたい。要は他人に合わせるのが面倒臭かったんだろうね。

 懐の狭い奴だと罵られるかもしれないけど、でも大学生なんてそんなもんだろ? 
 法律的には二十歳を超えて大人になってはいるけど、でも内面的にはまだまだ子供なんだ。
 自分が一番大事だったんだよ。

 ただあの日を境にして俺の胸懐に僅かな変化が起きたんだ。

 やっぱり人の命を背負った覚悟っていうのは、自分が思う以上に人を変えてしまうものなんだろう。
 決まり文句みたいな言葉だけど、やっぱり人っていうのは一人じゃ生きて行けないんだよね。

 君は彼女に生きてほしいと強く願った。そして俺は彼女の命を全力で救った。
 そんな俺に生きる意志を確立させてくれるのは、紛れもない君の存在なんだよね。

 冷たい彼女の感覚が今でも印象深く記憶に残っている。
 だから俺はそれを溶かしてくれる温もりを必要としていたんだ。
 そして俺は君の優しい温もりに身をゆだねる事で、砕けそうな気持ちを繋げられたんだよ。

 自分本位な都合で君に甘えているだけなんだ――って、はじめ俺はそう思っていた。
 だって自分自身が傷つく事に人一倍抵抗力が乏しい俺なんだ。自分の気持ちさえ補えれば、君の優しい心遣いだって卑しくも利用してしまう。そんなちっぽけな男なんだよ、俺なんてさ。

 けどそれは少し違ったんだ。言葉は悪いけど、俺は君の好意に甘え寄り添っていた。でも君の方も俺に頼り、そしてすがっていたんだよね。

 あの日の嫌悪感に怯える君は、震える心情を上塗りするため俺に強く包まれることを望んだ。胸に刻まれた怖さを無理やりにでも誤魔化すためには、きっとそれしかなかったんだろう。

 要はお互い様だったわけだ。グラウンドの休憩所では、共に胸の内をさらけ出して傷の舐め合いをした。
 その結果気分が晴れたのは嘘じゃない。そして今はお互いの体と気持ちをからめる事で、心の傷を柔和に癒している。

 生きる為の本能が表面化しただけだったのかも知れない。
 でも動機の理由は何であれ、そこには微かながらも確実に愛情が育まれていったんだ。

 そして俺は気付いた。君という存在が、ただ俺の心を癒す為だけにあるのではなく、掛け替えの無い大切なものになってしまったんだという事にね。

 その想いは君と過ごす時間が増えれば増えるほどに強く高まっていったんだ。
 こんな気分は今まで感じた事が無い。

 俺は今までに二人の女性と付き合った経験があったけど、正直に言えば相手に愛しさを覚えた事が無かったからね。

 それまでの俺は、単にステータスとして女性と付き合っていたんだろう。相手の事をどうこうというより、こんな俺でも彼女が居るんだという自尊心に満足感を付け加えたいだけだったんだ。

 振り返って思い出しても、俺は相手を心から思いやったり、相手の為に何かをしてあげたいと考えた事が見当たらない。
 まして一人夜眠る前に、相手の事など考えたなんて一度もなかった。そんな俺が今では君の事を思うと眠れなくなってしまうんだよ。