たとえ自分に嘘を付いたとしても、前衛からスタートしていれば良かったんだ。そんなしたたかさもレースには必要悪として許されているはずなんだ。
どうせ周りのみんなも少しはサバを読んで並んでいたのだろうからね。
でもそれを嘆いたところで意味が無いってことも理解しているんだ。
巨大な人波の一部となってしまった俺という個人が、ここで何をどう足掻こうとしたって、もうどうする事も出来ないんだから。
グッと奥歯を噛みしめて足を進めるしかない。俺はそんなやり場のない心情を抱えながら、仕方なく走り続けた。
ただその時、ふと視界に飛び込んで来たビルに俺は息を止める。完全に忘れていた思い出のひと欠片。
そうだ、あのビルの一階にある店舗は、かつて君と一緒に赴いた、手作りが自慢の【パン屋】じゃないか。
あの日から変わらずそこに存在し続ける一軒のパン屋。
いまだにその人気は高く維持されているんだろう。
俺は懐かしい眼差しを向けながら、そんな思い出の店の前を通り過ぎて行く。
入院していた彼女を見舞う為の口実として、君が俺を出し抜けに誘い訪れたパン屋。そして今日もその店の前からは、焼き立てのパンの香りが漂って来る。
あの日と同じで蒸しパンが甘い香りを発しているのかも知れない。
嬉しい限りだ。俺は素直にそう感じた。
あの日から変わらずにその場所で美味しいパンを提供し続けている。そんなパン屋に君との楽しい思い出を重ねたのが、嬉しさを感じた要因なんだろう。
でもさ、激戦極まりない飲食業界の中で、根強い人気を保ち続けているその店に【敬意】とも呼べる感情を抱いた事も、嬉しさを感じた要因なんだよね。
きっとあのパン屋は足を運んでくれる客の為に、日々努力を積んでいるんだろう。客の喜ぶ姿を見たいが為に、美味しいパンを造り続けているんだろう。
そしてそこにはしっかりとした目的があるはずなんだ。
客がより満足出来るパンを造り続ける。また食べたいと足を運んでくれる商品を全力で生み出し続ける。
そんな強い目的意識を常に抱きながら、強豪ひしめくこの大都会新宿で頑張っているんだ。
やっぱりどんな事にも目的ってやつは必須事項らしい。改めて俺はそう感じた。
でもだからこそ、俺は懐かしのあのパン屋を見て嬉しく感じたんだよね。
「無事に完走できたら、久しぶりに行ってみようか」
ふとそんな事を考える俺の胸は、穏やかな温かみで溢れて行く。
思い返せばこの東京マラソンのスタート地点である新宿っていう街は、君と度々デートをした場所でもあるんだよね。だから至る所に君との思い出が映し出されてしまうんだよ。
どうせ周りのみんなも少しはサバを読んで並んでいたのだろうからね。
でもそれを嘆いたところで意味が無いってことも理解しているんだ。
巨大な人波の一部となってしまった俺という個人が、ここで何をどう足掻こうとしたって、もうどうする事も出来ないんだから。
グッと奥歯を噛みしめて足を進めるしかない。俺はそんなやり場のない心情を抱えながら、仕方なく走り続けた。
ただその時、ふと視界に飛び込んで来たビルに俺は息を止める。完全に忘れていた思い出のひと欠片。
そうだ、あのビルの一階にある店舗は、かつて君と一緒に赴いた、手作りが自慢の【パン屋】じゃないか。
あの日から変わらずそこに存在し続ける一軒のパン屋。
いまだにその人気は高く維持されているんだろう。
俺は懐かしい眼差しを向けながら、そんな思い出の店の前を通り過ぎて行く。
入院していた彼女を見舞う為の口実として、君が俺を出し抜けに誘い訪れたパン屋。そして今日もその店の前からは、焼き立てのパンの香りが漂って来る。
あの日と同じで蒸しパンが甘い香りを発しているのかも知れない。
嬉しい限りだ。俺は素直にそう感じた。
あの日から変わらずにその場所で美味しいパンを提供し続けている。そんなパン屋に君との楽しい思い出を重ねたのが、嬉しさを感じた要因なんだろう。
でもさ、激戦極まりない飲食業界の中で、根強い人気を保ち続けているその店に【敬意】とも呼べる感情を抱いた事も、嬉しさを感じた要因なんだよね。
きっとあのパン屋は足を運んでくれる客の為に、日々努力を積んでいるんだろう。客の喜ぶ姿を見たいが為に、美味しいパンを造り続けているんだろう。
そしてそこにはしっかりとした目的があるはずなんだ。
客がより満足出来るパンを造り続ける。また食べたいと足を運んでくれる商品を全力で生み出し続ける。
そんな強い目的意識を常に抱きながら、強豪ひしめくこの大都会新宿で頑張っているんだ。
やっぱりどんな事にも目的ってやつは必須事項らしい。改めて俺はそう感じた。
でもだからこそ、俺は懐かしのあのパン屋を見て嬉しく感じたんだよね。
「無事に完走できたら、久しぶりに行ってみようか」
ふとそんな事を考える俺の胸は、穏やかな温かみで溢れて行く。
思い返せばこの東京マラソンのスタート地点である新宿っていう街は、君と度々デートをした場所でもあるんだよね。だから至る所に君との思い出が映し出されてしまうんだよ。
